メルマガタイトル・リンクと商標の使用

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1 今回の判例 メルマガタイトル・リンクと商標の使用
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 知財高裁平成22年4月14日判決


 食品メーカーであるH社は、「CLUBHOUSE/クラブハウス」という商標の商標権者でした。当該商標の指定商品は「加工食料品」等でした。


 この商標に対し、特許庁が不使用取消審判において取消を認める審決をしたため、H社が、その取消しを求めました。


 問題となったH社による使用態様は、H社が、メールマガジンと読者限定ウェブサイトに「クラブハウス」という標章を表示するもので、これらメールマガジン・当該限定サイトに貼られた多数のリンクによって、直接、加工食料品等H社の商品を詳しく紹介するH社のウェブサイトの商品カタログ等のページが閲覧でき、そのページで、商品写真や説明を閲覧することができる仕組みになっていました。


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2 裁判所の判断
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知財高裁は、H社の請求を認め、審決を取り消しました。


● 商標の使用があるとするためには、当該商標が、必ずしも指定商品に付されて使用されていることは必要ではないが、その商品との具体的関係において使用されていなければならない。


● 「クラブハウス」の標章が付されたメールマガジン及び当該限定サイトが、H社の商品を宣伝する目的で配信され、多数のリンクにより、直接加工食料品等のH社の商品を詳しく紹介するH社のウェブサイトの商品カタログ等のページにおいて商品写真や説明を閲覧することができる仕組みになっていることに照らすと、メールマガジン及び当該限定サイトは、H社商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報ということができ、そこに表示された『クラブハウス』標章は、H社の加工食料品との具体的関係において使用されているものということができる。


● したがって、『クラブハウス』標章は、加工食料品を中心とするH社商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報に付されているものということができる。


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3 解説
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(1) 商標の使用の意味


 商標権者は、商標権を維持するためには、当該商標を使用している必要があります。そうでないと、他者から不使用取消審判を起こされ、取り消されてしまうおそれがあります。


 そして、裁判例で争われてきた多くの事案で、ある具体的使用方法がその商標の「使用」といえるのかが問題となってきました。


 この点、商標の使用があると判断されるためには、当該商標は、必ずしも指定商品に付されて使用されていることまでは必要ありません。しかし、その商品との「具体的関係において」使用されていなければならないとされています(最二小判昭43.2.9民集22巻2号159頁)。



(2) メルマガなどからのリンクと商標の使用


 本件では、判決のとおり、メルマガのタイトルなどに使用された「クラブハウス」という標章について、そのメルマガなどからの多数のリンクを通じて閲覧できるウェブサイトにH社の加工食品の紹介・宣伝があり、そのため、「クラブハウス」という標章が、そのウェブサイト上の商品との「具体的関係において」使用されている、すなわち、指定商品である加工食品等に使用されていると判断されたものでした。


 この点に関連して、裁判所は、判決理由の中で、「商標法2条3項1号所定の使用とは異なり、同項8号所定の使用(*)においては、、指定商品に直接商標が付されていることは必要ではないところ、リンクを通じて原告のウェブページの商品カタログに飛び、加工食料品たる原告商品の広告を閲覧できること、そして、そのような広告はインターネットを利用した広告として一般的な形態の一つであると解されること」からすると、H社のメールマガジン等の表示が、H社商品に関する広告に当たらないということはできない、と述べました。


 この点の裁判所の判断については、インターネットという、広告宣伝の変化の実態に即したものであるという評価が多いように思われます。


   (*)商標法2条3項8号で、商標の使用の一態様
    として「商品に関する広告に標章を付して頒
    布し、又はこれらを内容とする情報に標章を
    付して電磁的方法により提供する行為」と規
    定されているものですものです。


(3)商標の維持の観点から
 
 もっとも、本件は、いったん特許庁で不使用取消審判がなされたとおり、商標が指定商品に使用されたことが明明白白であったとまではいえないように思われます。


 それで、ある商標を維持するための方策として、本件判決を根拠に、ある商標をメールマガジンのタイトルに使用し、そのリンク先にその指定商品の宣伝を置く、という方法だけを取れば大丈夫、といった見方はあまりお勧めはしにくいところです。


 本件でも、結果として不使用取消は免れましたが、不使用取消審判や審決取消訴訟への対応について結果的に多くのコストをかけているという点を見ても企業経営上はプラスとはいえなかったのではないかと思われます。


 少なくとも、現実の宣伝広告の運用においては、インターネット上で商標を使用するのであれば、当該指定商品の宣伝の同一ページに当該商標を表示するといった方法など、商標法2条3項8号により直接に即し、争いに巻き込まれる余地を少なくすることがより好ましいのではないかと考えられます。



(4)メルマガタイトルの選択と他社商標との関係


 他方、本件の判決は、他社商標の侵害について考慮する場合に、ひとつの考慮しなければならない要素を増やすものといえるかもしれません。


 例えば、「X」というタイトルで発行する自社のメールマガジンなどで、自社の商品宣伝(例えば文房具とか)のサイトにリンクするといったケースがあるとします。


 他方、たまたま、他社が、「X」というメルマガタイトルと同じ(または類似の)標章について、文房具を指定商品とする商標を持っていた場合、自社が選んだメルマガタイトルが、実はその他社の商標権を侵害している、といった事態も起きないではありません。


 したがって、自社メルマガを発行する場合、そのタイトルの使用が、商標の使用として判断される余地がないか、また、他社の商標に抵触していないか、そういったことに注意を払うことも考慮に入れるべきではないかと思われます。そして、タイトルの使用が「商標の使用」といえるか判断が難しい場合、商標の専門家の意見を聞くなどの事前策はマイナスにはならないでしょう。


 


椅子デザインの模倣と応用美術(2)

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1 今回の判例 椅子デザインの模倣と応用美術(2)
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東京地裁 平成22年11月18日判決

 本件は、本稿で以前取り上げたものです。
 
 本件は、我が国には昭和52年から輸入されていた特徴のある椅子(X社製品)を製造・販売・輸出していたX社と他の1社が、この椅子を模倣した製品を販売しているとして、Y社に対しY社製品の製造販売の差止と損害賠償を請求したものです。

 X社の主張は、主に、(1)Y社によるX社製品の著作権侵害の主張、(2)周知な商品等表示であるX社製品の形態を使用する不正競争行為に該当するという主張、でした。

 本稿では(2)について取り上げます。


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2 裁判所の判断
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(1)原告製品の形態の周知性については、

 ● X社製品の特徴的な形態
 ● 販売数量の経年的増加
 ● 新聞や雑誌への広告等の掲載実績
 ● 宣伝広告記事やパンフレットへのX社の表示の実績

などを考慮し、X社製品の形態は、X社の「商品等表示」として、遅くとも平成17年10月31日までには周知なものになっていた。


(2)X社製品の形態とY社製品は、両製品の共通点を総合判断すれば、類似する。


(3)混同のおそれの有無については、両製品の用途(子供用のいす)、主な需要者(小さな子供を持つ親たち)、価格帯の共通性などから、Y社製品に接した需要者が、Y社製品がX社製品(またはX社の関連会社の製品)であると誤信するおそれがある。

(4)以上から、Y社製品の製造販売は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。


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3 解説
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(1)商品デザインと周知表示混同惹起行為

 意匠登録等されていない製品のデザインについても、法的に保護される(他者に対し類似のデザインの製品の製造販売を禁止できる)場合があります。

 この点、不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」を不正競争行為として禁止しています。

 具体的には、以下の要件を満たす必要があります。

(a)商品表示性
   商品の形態が特徴的で、商品の印(しるし)として機能する
  必要があります

(b)周知性
   商品の形態が需要者の間で広く認識されている必要がありま
  す。

(c)類似性
   商品形態が、全体として類似する必要があります。

(d)混同のおそれ
   需要者が両者の商品の間で混同を起こすおそれがあることが
  必要です。


 (a)(b)についていえば、商品の形態が特徴的で、かつ需要者(この商品の取引に関わる人々)の間で周知となっており、この特徴的な形態を見れば、特定の事業者の商品であると認識される程度に知られている場合である必要があります。実際に、商品形態の保護が認められた例としては、ルービックキューブ、チョロキュー、iMacなどがあります。



(2) 周知表示混同惹起行為による商品形態の保護と証拠の収集保存

 先に述べたとおり、商品形態の保護のためには、可能なら意匠登録することが望ましいと考えられます。もっとも、意匠登録にも一定の要件がありますから必ずしも登録ができないようなケースもあるでしょう。

 この場合、不正競争防止法による商品形態の保護も検討しなければならない場面が生じるかもしれません。ここで重要となってくる要素の一つは「周知性」の立証です。つまり、訴訟においては、ある商品形態が需要者の間で周知(知られている)ことを立証しなければ成りませんが、そのためには、普段の証拠の収集と保存が大きくものをいうことがあります。

 自社の当該製品について、周知性についての主な立証手段としては以下のようなものがあります。

 ● 販売期間・販売地域の資料
 ● 売上高の資料
 ● 宣伝広告費の金額
 ● 市場シェアの資料
 ● 販売店数、製品流通量
 ● 新聞・雑誌・書籍・テレビ・ラジオにおける当該製品が取り
  上げられた記事(多ければ多いほどよい)
 ● 宣伝・広告の地域・量・内容に関する資料(多ければ多いほ
  どよい)
 ● 需要者に対するアンケート調査

 以上のような資料は、紛争が生じてから収集できるものもあるかもしれませんが、そうではないものもあるでしょう。そのため、いざ紛争が生じたときに立証手段に窮し、受けられるべき保護が受けられなくなる、といった事態が生じるかもしれません。

 この点、普段の業務過程で生じる資料を保存しておくことで、そのような事態をできる限り防ぎ、自社の正当な利益の保護につながることになるかもしれません。

絵画の鑑定証書と著作権権法上の引用

JUGEMテーマ:ビジネス


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1 今回の判例 絵画の鑑定証書と著作権法上の引用
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 知財高裁 平成22年10月13日判決

 美術品の鑑定を専門的に行うY社は、著名な画家A氏の絵画の鑑定を行い、鑑定証書を作成しました。鑑定証書の裏面には、パウチラミネート加工によって、鑑定した絵画を縮小カラーコピーしたものが付けられていました。

 これに対して、A氏の相続人であるX氏は、Y社がA氏の著作権(複製権)を侵害したとして、Y社に対する損害賠償請求訴訟を提起しました。


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2 裁判所の判断
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知財高裁は、以下のとおり判断し、X社の請求を認めませんでした。

(1)公表された著作物は、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されている(同法32条1項)。

(2)本件で鑑定証書に絵画のコピーを添付したことは、著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において、公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内の利用であるとして、32条1項の規定する引用として許される。


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3 解説
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(1)著作権法上の「引用」

 他者の著作物を複製する場合には原則として複製権を侵害することになりますが、著作権法に定める「引用」に該当する場合には、著作権者の許諾なく、著作物を利用できます。

 一般的に、「引用」として適法となるためには、以下の要件が必要であるとされています(なお裁判例などで若干内容に差異があります)。

 ア 引用が公正な慣行に合致すること
 イ 引用が、報道、批評、研究などの引用の目的上正当な範囲
  内であること
 ウ 引用を行う必要性があること
 エ 引用部分とそれ以外の部分の主従関係が明確であること
 オ 引用部分が明確になっていること
 カ 出所の明示

 本件では、鑑定証書について、(a)その鑑定対象である絵画の特定と鑑定証書偽造防止の観点から、添付の必要性・有用性が認められる、(b)贋作の排除・著作物の価値向上・著作権者等の権利保護の観点から、著作物の鑑定のための当該著作物の複製利用は著作権法の規定する引用の目的に含まれる、(c)絵画とカラーコピーが別に流通することや、作家側が絵画の複製権から経済的利益を得る機会が失われることも考え難いことから、鑑定証書へのコピーの添付は公正な慣行に合致したものである、といった判断で、引用の要件に合致すると判断されました。


(2)ビジネス上の留意点

 著作権法上の引用の規定に基づき、他者の著作物を利用するケースは、比較的トラブルが生じやすいケースですので、十分注意が必要です。具体的には、以下のような点に留意する必要があるでしょう。

 ア 引用する必要性の存在
  自己の記述上、補足・批評、その他、他人の著作物を引用する
  必要性がなければなりません。

 イ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」
  自己の著作部分が「主」であり、引用する著作物が「従」とい
  う関係が必要です。引用する部分は必要最小限にとどめること
  が望ましいといえます。また、質的に見ても、自己の著作部分
  に実質的な内容がなく、引用部分が実質的に内容の多くを担う
  場合は「引用」とはいえません。

 ウ 引用部分の明瞭な区分
  自分の著作部分と引用する著作物が、明瞭に区分されて、引用
  部分が自分の著作物と誤認されないような体裁上の区分をする
  必要があります。

 エ 原形を保持して掲載する
  ある著作物の著作者には、著作者人格権の一つとして「同一性
  保持権」があります。したがって、当該著作物を編集・変形せ
  ず、原形を保持することが必要です。

 オ 原著者の意図に反した引用をしない
  引用する著作物の文脈を無視して、原著者の意図を曲げて引用
  するといった引用は許されません。また、著作者の名誉や声望
  を害した利用も許されません。

 カ 出所(出典)の明示
  出所を明示することが、多くの場合必要です。


 そして、以上のほか、本件で問題となったように、引用が「公正な慣行」に合致することや 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であることについては、争いになることが多く、多くの裁判事例があります。

 他者の著作物を通常の学術論文などに通常の目的・方法で引用する場合には、問題となることは少ないでしょうが、ビジネス上の目的で他者の著作物を、「引用」として許諾なしで利用しようとする場合、難しい法的判断が必要となる場合があります。この場合、弁護士などの専門家の助言を得て慎重に進めることが好ましいと思われます。
 


椅子デザインの模倣と応用美術(1)

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1 今回の判例 椅子デザインの模倣と応用美術(1)
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 東京地裁 平成22年11月18日判決


  本件は、我が国には昭和52年から輸入されていた特徴のある椅子(X社製品)を製造・販売・輸出していたX社と他の1社が、この椅子を模倣した製品を販売しているとして、Y社に対しY社製品の製造販売の差止と損害賠償を請求したものです。


 X社の主張は、主に、(1)Y社によるX社製品の著作権侵害の主張、(2)周知な商品等表示であるX社製品の形態を使用する不正競争行為に該当するという主張、でした。


 本稿では(1)について取り上げ、後日の機会に(2)について取り上げたいと思います。



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2 裁判所の判断
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(1)意匠法等の産業財産権制度との関係から、著作権法により美術の著作物として保護されるのは、純粋美術の領域に属するものや美術工芸品である。


(2)実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されているもの(いわゆる応用美術)は、それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り、著作権法による保護の対象になるという。


(3)X社製品のデザインは、椅子のデザインであって、実用品のデザインであることは明らかであり、その外観において純粋美術や美術工芸品と同視し得るような美術性を備えていると認めることはできないから,著作権法による保護の対象とはならない。



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3 解説
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 本件の裁判所が述べるとおり、工業製品等についての応用美術については、純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に著作権権法の保護が受けられる、というのが多くの裁判例の立場です(ただし、裁判例によって微妙に表現の仕方が異なります。)。したがって、応用美術について著作権法上の保護が与えられるケースは、現実には非常に限定されています。


 この点、少なからぬ方々は、自社の製品はデザインが優れているので著作権があり、著作権法で保護される、したがって、手間と費用のかかる意匠出願は不要、と考えているかもしれません。しかし、そうだとすれば現在の著作権法に対する理解としては不正確といえるでしょう。


 自社にとって重要な製品であって、画期的なデザインを有するものについては、本来の工業製品のデザインを保護する制度である意匠登録による保護を活用すべきではないかと考えられます。


 ただし、一定の場合には、不正競争防止法の活用による保護の余地はあります。この点は別途取り上げる予定です。


 


病院経営管理に関する書籍と職務著作

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1 今回の判例 病院経営管理に関する書籍と職務著作
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 東京地裁平成22年9月30日判決


 医療・福祉経営コンサル会社X社に就職し、取締役になったY氏が、出版社から病院の経営管理に関する書籍の執筆の依頼を受けました。


 Y氏は、部下である従業員らと分担して執筆を担当しました。Y氏がX社を退職後、当該書籍Aが出版されました。


 これに対し、X社が、書籍AがX社の職務上作成されたものであるとして、また、従業員らが執筆した部分の著作物の著作権がX社に帰属するとして、Y氏に対し、書籍Aの出版、販売及び頒布の差止めと廃棄、損害賠償を求めました。



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2 裁判所の判断
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 裁判所は以下のように判断し、X社の請求を認めませんでした。


(1)書籍Aの執筆は、Y氏個人に対して依頼されたものであり、各執筆担当従業員がY氏からの個人的な依頼に基づき執筆を行ったものであると認定し、書籍Aの執筆過程で作成された著作物は、X社の発意に基づき職務上作成されたものであるということはできない。


(2)したがって、書籍Aに含まれる著作物はX社の職務著作とはいえず、X社に著作権は帰属しない。



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3 解説
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(1)職務著作とは


 通常、ある著作物の著作者になるのは、その著作物について現実に創作活動を行った個人です。


 しかし、会社(法人)等の職員がその職務上著作物を創作する場合があります(例:会社の従業員が製品マニュアルを作成する。新聞記者が新聞記事を執筆するなど)。このような場合に、会社にその著作権が帰属させないと不都合なことが多くなります。


 そこで、著作権法は、一定の要件を全て満たす場合、会社などの法人が著作者になる旨を定めています(著作権法15条)。



(2)職務著作の要件


 著作権法が定める一定の要件は以下のものです。


 a その著作物が、当該法人や雇用者の発意に基づくものである
  こと


 b 法人等の業務に従事する者が、職務上創作したこと


 c 公表するときには、法人等の名義で公表されること


 d 契約や就業規則に別段の定め(例えば従業員を著作者とする
  定め等)がないこと  


 以上のとおり、職務著作が認められる要件は少なくありませんので、自社で何かの著作物を作成する場合、上記要件を意識した運用が必要となってきます。


 例えば、前記bの要件についていえば、使用者と作成者とのあいだに雇用関係があること、または、実質的にみて、法人等の内部において従業者として従事していると認められる場合があることをいいます。それで、雇用関係のない外部の者が請負契約により著作物を作成した場合には、職務著作は適用されません。したがって、請負契約等で第三者に著作物の作成を依頼する場合、契約書に著作権の移転を明示する必要があるわけです。


 なお、職務著作の要件に関する個々の論点は、今後都度取り上げていきたいと思います。


 


ペ・ヨンジュン事件とパブリシティ権

JUGEMテーマ:ビジネス


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1 今回の判例 ペ・ヨンジュン事件とパブリシティ権
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東京地裁平成22年10月21日判決

 本件は、著名な韓国人俳優であるX氏が、雑誌Aの出版社Y社等に対し、X氏の多数の写真などが掲載された雑誌Aを出版・販売した行為が、X氏の「パブリシティ権」を侵害するものであると主張して、損害賠償を求めた事例です。


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2 裁判所の判断
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裁判所は、以下のとおり判断し、X氏の損害賠償請求を認めました。

(1)雑誌Aの構成は、X氏の来日の際の活動を紹介を中心とし、そのすべてをX氏の氏名、写真、関連記事、関連広告が占めている。

(2)雑誌Aのそのほとんどのページに、合計74枚のX氏の写真が掲載されている。

(3)表表紙と裏表紙には、X氏の写真が全面に使用され、表表紙にはX氏の氏名が大きく記載。

(4)多くのページの全面にX氏の写真が使用され、記事部分があるページもごくわずかか、数分の1である。

(5)X氏の氏名・肖像は強い顧客吸引力を有すること、雑誌Aが上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であることなどを併せ考えると、雑誌Aのように表紙及び本文の大部分でX氏の顔や上半身等の写真をページの全面又はほぼ全面にわたって掲載するような態様でのX氏の写真の使用は、X氏の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものと認められ、X氏のパブリシティ権を侵害する。

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3 解説
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(1)著名人とパブリシティ権

 商品・サービスなどの宣伝や、企業のイメージキャラクターに著名人が起用されるケースが世の中に多く見られます。それは、有名人の肖像や名前には人々の注意を引く力があるからであり、これは「顧客吸引力」と呼ばれます。

 そして、著名人の氏名や肖像が持つ顧客吸引力が、経済的利益又は価値を持つことから、自己の氏名・肖像から生じる経済的利益・価値を自己が排他的に支配し、無断で第三者に使わせない権利が発生することになります。この権利をパブリシティ権といいます。

 この点、第三者が、ある著名人の肖像や名前を自己の商品やサービスに使用することが、当該著名人の許諾を要するものなのか(つまり、許諾なしでの使用が違法となるか)については、多くの裁判例の蓄積があります。

 この点、裁判例の多くは、当該著名人の氏名や肖像の使用が、当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としているものか否かで判断しています。


(2)パブリシティ権とビジネス上の留意点

 もっとも、ある商品に著名人の氏名や肖像を使用しつつ、「当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としている」とはいえないと判断される余地のあるケースは、ある著名人について扱った出版物といったものに限られるように思われます。

 そして、著名人の写真や氏名の使用が、あくまでも商品やビジネスの主たる目的に必要な範囲の副次的・付随的な用途である必要もあり、著名人の写真や氏名の顧客吸引力を利用することが「もっぱら」とまではいえなくとも、主要な目的・用途の一つと考えられるような使用は避けるべきでしょうし、写真についていえば、写真自体が鑑賞の対象になるような写真の使い方も避けるべきでしょう。

 したがって、著名人の氏名や肖像の使用においては、仮に争いになって訴訟で勝訴する可能性のある微妙なケースであっても、当該著名人の許諾を受けることを原則とすべきと考えられます。


OEM契約の終了と製品の無権原販売

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1 今回の判例 OEM契約の終了と製品の無権原販売
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東京地裁平成22年4月23日判決

 X社は、平成14年はじめころから、インターネットモールにネットショップ「元気健康本舗ABCD」(仮名)において、「ABCD」(仮名)という標章(X社標章)を使用して商品Aの販売を開始しました。

 商品Aは、Y社が製造し、B社が袋詰めしてC社に卸し、これをX社が仕入れて販売していました。その後、平成19年11月までに、X社は本件商品のOEM供給元をY社から別の製造業者に変更しました。

 Y社は、Y社の元に残った商品A在庫品を、Z氏に委託してネットオークションで販売しました。

 X社は、Y社とZ氏の在庫品の販売につき、不正競争防止法違反を理由に損害賠償を求めました。


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2 裁判所の判断
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(1)Y社による販売はインターネット上の日本語のオークションサイトで行われたもので、日本全国の需要者を販売対象としていたから、Y社による販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するというためには、X社標章が全国的に周知であったことを必要とする。

(2)X社の売上高とネット通販全体の市場規模との比較、X社のサイトへのアクセス回数、Y社の売上との比較、雑誌記事への掲載等を検討し、X社標章についてはX社の商品等表示として周知であったことを認めるに足りない。

(3)X社標章に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのはX社であり、Y社は、製品A(袋詰めされる前の半製品)を製造し卸売りしていたにすぎない。Y社とZ氏による製品Aの販売は、OEM供給先であるX社の信用が化体されたX社標章が付された樹液シート在庫品の残りをY社らが原告に無断で販売したというもので、OEM商品の横流しともいうべき行為であり、公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為と評価できるから、民法上の一般不法行為を構成する。


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3 解説
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(1)商品等表示と周知性立証

 X社は「ABCD」の標章(X社標章)については、商標権を有していなかったものと思われますが、Y社に対し、不正競争防止法2条1項1号による周知表示混同惹起行為に基づく責任を追及しました。

 周知表示混同惹起行為とは、「他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」をいいます。

 つまり、商標として登録されていないような標章等(商品等表示)であっても、一定の需要者の間で周知となれば、第三者は、そのような商品等表示と混同を生じさせるような表示を使用することは許されません。この商品等表示には、氏名、商号、商標、標章、商品の容器、包装、またこれらに限らず、何らかの方法で商品または営業を表示するものであればよいとされています。

 しかしながら、ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号によって保護されるためには、この商品等表示が「周知」であることを立証する必要があり、この周知性の立証はかなり厄介です。現実に、本件でも、X社は、X社標章の周知性の立証ができませんでした。

 ですから、ある標章について保護を受けるためには、可能な限り、商標登録をすることが最善ではありますし、ある商品に付する標章の選択においては、商標登録可能性を十分に検討の上選択することが望ましいと考えられます。


(2)民法上の不法行為と取引上の公正の保持

 裁判所は、X社の請求のうち不正競争防止法に基づく請求は認めませんでしたが、Y社の行為が「OEM商品の横流し」であって、「公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為」として、民法709条に基づく不法行為としてY社の責任を認めました。確かに、OEMメーカーが供給先である他社のブランドを付した商品をそのまま販売することは、確かに著しく不公正な行為といわれても仕方がないことでしょう。

 このように、裁判所は、ある当事者の行為が、商標法、著作権法や不正競争防止法などの特定の法律に抵触しない場合であっても、社会通念上・取引通念上看過できない行為については、民法上の不法行為の規定を活用して行為者の責任を認めることがあります。

 Y社としては、X社のX社標章が商標登録されていないといったことを奇貨として製品Aの販売に及んだのかもしれませんが、相手方に厳密な意味でいかなる権利があるかといったことは別として、事業者としての取引秩序に大きく反するような行為は慎むべきでしょう。
 

職務発明と特許の二重譲渡

  知財高裁 平成22年2月24日判決


 X社の従業員A氏は、X社在職中に工作機械に関する職務発明であるB発明をしました。X社の就業規則には、職務発明につき特許を受ける権利をX社に承継させる旨の定めがありました。


 しかし、A氏は、平成16年1月にX社を退職後、Y社に入社し、B発明についての特許を受ける権利をY社に譲渡しました。すなわち、B発明についての特許を受ける権利は、X社とY社に二重譲渡された、ということになります。


 そして、Y社は、平成16年6月にB発明につき特許出願をしました。これに対し、X社は、B発明の特許を受ける権利がX社が有することの確認を、裁判所に求めました。


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2 裁判所の判断
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知財高裁は、以下のとおり判断し、X社の請求を認めました。


(1)A氏は、平成16年1月のX社退職時に、在職中に知り得た秘密の漏洩や自己使用をしないというという誓約書をX社に提出していた。


(2)Y社による特許出願の時点ではY社の代表取締役は、B発明につき、AがX社の従業員としてなしたものであることを知っていた。


(4)それで、通常は、B発明は職務発明としてX社に承継されているであろうことも認識していたというべきである。


(5)Y社は背信的悪意者に当たるから、Y社が先に特許出願したからといって、それをもってX社に対抗することはできない。


(6)X社は、B発明につき特許を受ける権利の承継をY社に対抗することができる。


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3 解説
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(1)特許権の譲渡と対抗要件


 特許法34条1項は「特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することはできない」と定めています。


 つまり、特許を受ける権利が、何らかの事情で甲から乙に譲渡され、その後、甲から丙に譲渡された場合でも、丙が先に特許出願をすれば、乙に対して特許を受ける権利を主張できる(対抗できる)という法理なのです。それで、この場合には、乙は丙に対して特許を受ける権利を主張できません。


 他方、この対抗要件の法理を機械的に適用すると、不都合な事態が生じることがあります。それで、前記の例でいえば、Cが信義則上、Bが対抗要件を備えていないことを主張する正当な利益を有しない場合には、BはCに対し、特許を受ける権利を主張することができます。


 本件についていえば、本件の知財高裁の判決の原判決は、Y社は背信的悪意者とはいえないと判断し、X社はY社に対しB発明の特許を受ける権利の承継を対抗することはできないとして、X社の請求を認めませんでした。


 他方で、知財高裁では、Y社が、A氏から譲渡を受けた特許を受ける権利がすでにX社に譲渡されていたことを知っていたこと、かつ、A氏がX社に対し、特許出願にかかる情報が機密であって第三者に漏洩してはならないような義務を負っていることを、Y社が知っていた、といった事情から、Y社を「背信的悪意者」と認定し、X社の請求を認めたわけです。



(2)転職者と特許出願の留意点


 特許を受ける権利の二重譲渡というと滅多にないケースかもしれませんが、本件のような、他の企業で開発部署にいた等、職務発明をしていた可能性のある従業員の転職を受け入れた企業が、転職者が持ち込む何らかの発明や技術開発情報を使用するというケースは、どの会社でも起きる可能性がないとはいえないものかもしれません。


 そして、この場合、転職者によって持ち込まれた発明等を手放しで利用できるかどうかについては、少々立ち止まって慎重に検討することが重要となると思われます。


 例えばその転職者から事情を聴取し、転職者が負う機密保持義務の有無と内容、その発明や技術開発情報の知得の経緯、前職時代である場合には職務発明該当性、これらの発明や技術開発情報の開示が転職者の義務に違反しないかなどを調査する必要があると考えられます。


 以上のとおりの調査によってクリアランスが得られた結果、転職者から譲渡を受けた特許を受ける権利に基づき出願したケースであれば、結果的にその特許を受ける権利が二重譲渡であることが判明した場合であっても、少なくとも自社が背信的悪意者には該当するとして特許を受ける権利を失う、といった事態を回避する可能性があると思われます。


 


製品の比較表と不正競争

  大阪地裁 平成22年1月28日判決


 Y社は、社会保険労務士を対象とする業務支援ソフトを販売していました。


 Y社は、2008年3月5日から3月19日までの間に、全国数か所で製品説明会を開催し、自社のソフトウェアと競合他社であるX社が提供するソフトウェアとの比較表を来場者に配布していました。


 この比較表では、X社のソフトウェアには給与明細のインターネット配信の機能が備わっていないと記載されていましたが、X社のソフトウェアはバージョンアップされ、3月17日からこの機能が備わるようになっていました。


 X社は、来場者に対し虚偽の内容を記載した比較表を配布したことが不正競争防止法違反にあたるとして、Y社に対して損害賠償請求をしました。



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2 裁判所の判断
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 裁判所は、以下のように判断し、X社に対する損害賠償を命じました。


(1)Y社の比較表は、X社のサービスの機能が実際よりも低いことを示すもので営業上の利益を害するものと認められる。


(2)X社のソフトウェアが給与明細のインターネット配信の機能を備えるようになったことは1月と2月に新聞広告に掲載されており、Y社が容易に知ることができた。X社のソフトウェアの機能について間違った比較表を配布したY社に過失があった。



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3 解説
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(1)不正競争防止法と信用毀損行為


 不正競争防止法2条1項14号は、競争関係にある他人の信用を毀損する行為を不正競争行為としています。


 具体的な要件は以下のとおりです。


1 争いとなっている両者間に競争関係にあること
2 ある事実について告知又は流布行為があること
3 2の事実が虚偽であること
4 2の告知又は流布が他人の営業上の信用を害すること


 したがって、例えば,ライバル会社、競争相手の取引先に対して、当該競争相手の商品についてネガティブなことを告げたり、ホームページ上で告知する場合は、十分な注意が必要です。よくある例としては、自社で特許権を持っており自社製品を製造しているとして、競争相手がその特許権を侵害した製品を製造又は販売しているように思え、競争相手の取引先に対し,競争相手の製品が自社の特許権を侵害しているといったことを告知する場合です。



(2) 製品の比較表と調査義務


 本件のように、他社製品との比較表を配布する場合には、もしその比較表に記載された他社製品の機能についての記載が誤っている場合、競合他社から訴訟を提起され、場合によっては差止の命令や損害賠償の命令を受けるというリスクがあることを、認識しておく必要があります。


 このようなリスクをできる限り回避するためには、まず、他社製品との比較表を作成する際、他社製品の機能について誤った記載がないような十分な調査が必要と思われます。具体的には、競合他社のウェブサイト、製品カタログ、広告、仕様表、場合によりマニュアルなどを入手できるでしょう。さらに、いったん作成した比較表について、他社製品の新機種の販売状況・改良状況・機能追加状況等、定期的に情報収集し、比較表の正確性を随時チェックすることも重要となります。


 また、十分な調査をしたにもかかわらず結果的に誤りが入り込んだ場合には「過失」がない、ということで免責される余地もありますから、どのような資料からどのような判断をしたのか、調査資料を残すとともに、調査資料のどの記載からどんな判断をしたのかの記録を残しておくことも、できる限り行っておくことは重要といえるでしょう。


 さらに、このような営業資料は、会社全体として監修・管理する必要もあると思われます。例えば、営業担当の従業員が、自己の判断で十分な調査もなく他社製品との比較表を制作し、チェックされることなく配布するような事態があるとします。しかし、この比較表に誤りがあった場合でも、会社としては責任を負わなければなりません。それで、個々の従業員に対し、このような行為を慎むよう周知徹底することも重要と思われます。


「招福巻」事件とブランド管理

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1 今回の判例 招福巻事件とブランド管理
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 大阪高裁 平成22年1月22日判決


 X社が、「招福巻」(本件商標)という商標権(本件商標権)を有していました。他方、全国でスーパーマーケットを展開するY社は、各店舗で節分用に販売した巻き寿司の包装に「十二単の招福巻」という標章(Y社標章)を付していました。


 これに対し、X社は、このY社の行為がX社の商標権を侵害するとして、前記行為の差止を求め、かつ損害賠償を請求しました。


 なお、Y社は、広告ビラに「穴子、海老など色とりどりの12種の具材を贅沢に使った恵方巻です。」という紹介文とともに、ゴシック体文字で「十二単の」の部分を小さく横書きし、かつ、「招福巻」の部分を大きく横書きしていました。



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2 裁判所の判断
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大阪高裁は、以下のように判断しました。


● 本件商標とY社標章とは類似する。
● しかし、Y社標章にある「招福巻」の部分は、商標法26条1項2号の「普通名称」に該当する。
● 本件商標の商標権の効力は、Y社標章には及ばない、つまり、Y社標章の使用は、本件商標権を侵害していない。



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3 解説
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(1)商標権が及ばない場合の例:「普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」


 商標法26条1項各号は、ある商標権の効力が及ばない(つまり商標権の侵害とはならない場合)を列挙していますが、その一つが、同項2号の、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」です。


 普通名称を商品名などに使用しても、商標としての機能(自他商品識別機能、出所表示機能)が失われますし、そもそも普通名称につき特定人に独占的使用を許すことは社会経済上適切ではないからです。



(2)商標の普通名称化とその原因


 商標として登録された名称であっても、その後普通名称となってしまうことがあります。つまり、登録時には、ある名称が、特定の企業が提供する商品を識別する標識としての機能(自他商品役務識別機能、出所表示機能)を有していたところ、徐々にその機能が弱まって消失し、取引者や消費者といった需要者の間で、その商品や役務を表す一般的名称として意識されるに至ることがあります。これは「商標の普通名称化」といわれています。


 商標が普通名称化する原因にはいくつかありますが、その主なものを取り上げると次のとおりです。


● 商標権者がブランド管理を怠った場合
 ある商標が広く知られ、周知・著名になった場合、これを無断で同種の商品に使用しようとする事業者が多く出現するようになります(いわゆる「ただ乗り」「フリーライド」です。)。このときに、商標権者が、適切な禁止措置をせずに放置する場合があります。その結果、多数の事業者がその商標を広範囲に使用するようになり、消費者などの需要者から見ればその商標を見ても特定の会社の提供する商品の名称であるという認識を持たないようになり(商標が自他商品識別力を失い)、普通名称化することがあります。


● もともと自他商品識別力が弱い商標の場合
 もともとの商標が、元来強い自他商品識別力を発揮持たないいわゆるウィークマークである場合、普通名称化しやすい傾向があります。このウィークマークの中には、その商品の、品質、原材料、効能、用途などを表示する語や、これらの略称を組み合わせることにより構成した商標があります。



(3)ビジネス上の留意点 〜 不断のブランド管理の重要性


 すでに述べたとおり、商標が普通名称化すると、商標としての機能は失われ、商品などに用いても、顧客吸引力を発揮しなくなりますし、第三者による無断使用を排除することができなくなります。その結果として、これまでの営業努力によって築きあげられたブランドとしての価値を失いますので、その商標権を保有していた企業にとっては、大きな財産的損失となります。


 それで、商標権者は、自社商標の普通名称化を阻止するために不断の努力を払う必要があります。つまり、同業者等が自社商標を無断で使用していないか、また、市場において取引者等が自社の登録商標を商品の慣用的な名称として使用していないか、等を常に監視しなければなりません。そして、無断使用や不適切な慣用的名称としての使用が発見された場合には、適切な対処をする必要もあります。


 具体的には、同業者の無断使用に対して適宜に警告を発したり場合によっては裁判上の差止請求をすることが考えられます。また、不適切な慣用的名称に対しても、使用を中止してもらう、表現を改めてもらう、この名称が自社の商標であることを明示してもらう、といったことを求めていきます。


 自社商標の使用状況を監視する方法のうち、主なものを取り上げれば以下のとおりです。なお、個々の手段についての詳細な解説は、別の機会に譲りたいと思います。


■ 新聞(業界紙含む)、雑誌、書籍、辞書(専門用語辞書を含む)のチェック
 自社商標が普通名称や商品の慣用的な名称として使用されていないかチェックします。


■ インターネット上での使用状況のチェック


■ 現実の営業活動における情報収集
 現実の営業活動において、同業他社・商品の納入先等が自社商標と同一・類似の商標を使用していないか、使用方法が適切かをチェック します。


■ 他社の広告、チラシその他の宣伝媒体のチェック


■ 自社商標と類似商標の出願・登録情報のチェック
 本来は登録されるべきでない自社商標と類似の商標が出願・登録されていないかチェックします。


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